第29回秋田県理学療法士学会 学会長挨拶
第29回秋田県理学療法士学会
学会長 鈴木 克昌
(介護老人保健施設 山盛苑)
昨今、若手の育成や定着に課題を感じている理学療法士諸氏は多いに違いない。厳しい指導や試験を課し教え子から陰で「鬼の○○」と云われた養成校の教員、睡眠時間を削って臨んだ学生時代の臨床実習、そして卒業後も「石の上にも三年いれば暖まる」を純粋に信じて毎日の居残り業務・学習を耐え抜いた新人時代といった自身の体験を、今の世代と共感することはできない。その背景には、2010年代後半以降の働き方改革、2020年4月の理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則を一部改正する省令の施行、加えてハラスメント意識の高まりなどがあり、自身が育てられてきたやり方で後進を育てていくことは難しくなってきている。そして、もはや「ふるい教育」や「ふるい職場」に戻ることはないであろう。これは若者を潰すような機関や職場は許さないという社会規範を背景とする強力かつ不可逆的な変化だからだ。
一方、患者や利用者など理学療法を受ける側の視点に立つまでもなく、各職場で提供している理学療法の質を確実に担保していくために若者の初期のキャリア形成は大変重要である。神戸大学の金井壽宏名誉教授が提唱した最低必要努力投入量という概念では、ひとつの分野で優位性を持てる専門性を確立するためには一定の時間・一定の努力量が必要とされているが、「ゆるい職場」においては、その投入量への到達までが遠くなっていると云われている。こうした時代の潮流の中で我々理学療法士は後進をどう育成してゆけば良いのか。
本学会では、日本理学療法士協会理事の野崎展史氏を特別講演の講師にお招きし、その問いについてともに考えていきたい。そしてシンポジウムでは県内各施設から後進育成について考えていることや取り組んでいること、工夫していること等の情報提供をいただき、さらに新人や若手にも指導者側に望むことなど、前向きな発言・声を募る。育てる側・育てられる側の双方にとって今後の参考となるような活発な意見交換の場となることを期待する。